心房細動へのワソラン投与の注意点。心不全では禁忌!

ワソラン®(一般名:ベラパミル)は心房細動やその他の不整脈でも心拍数のコントロール目的に使用します。

内服薬だけでなく静注薬もあるので、急ぐ場面でも重宝します。

しかし、心房細動と同時に心不全が合併している場合には、ワソランの使用には注意が必要です。

ワソランの添付文書の禁忌の項目には、重症のうっ血性心不全と記載されていますし、うっ血性心不全そのものも慎重投与となっています。

理由について少し補足すると、ワソランには陰性変時作用と陰性変力作用の二つがあります。

陰性変作用→心拍数を落とす
陰性変作用→心収縮を落とす

この陰性変力作用があるために、心収縮がもともと悪い人に対して使うと、余計に循環動態が悪化したり、うっ血がヒドくなってしまいます。

実際に日本循環器学会のガイドラインでは、左室駆出率(LVEF)<40%でのワソラン投与は禁忌としています。

若くて基礎疾患が無い心房細動の人にワソランを使っても、血圧がグッと下がることも多いので、心臓が悪くて血圧が低い人に使ってしまうと最悪です。

このように心不全を合併した時の心房細動へのワソラン投与は危険を伴うものです。

しかし心房細動 = ワソラン投与というような感じで1:1対応で覚えて曖昧な知識で臨むと、頻脈性の心房細動をみて、心不全かどうか考えずに「心拍数を下げなきゃ!」と焦ってワソランを投与してしまうかもしれません。

ワソランを投与する前には、少なくとも

☑呼吸不全がない
☑浮腫がない
☑ショックではない

といった、うっ血を示唆する所見がないことや血圧に余裕があることを確認して

☑胸部X線で胸水がないこと
☑心エコーで左室収縮が良いこと

を確認できると、憂いなく使用できます。

心房細動へのワソランの使い処は?

不整脈の薬物治療は人によって好みもあり定型があるわけではありませんが、心房細動に対する私なりの使い方を紹介します。

うっ血性心不全がない、ショックではない

これは上述した通りです。

全身状態が不良ではない

例えば、脱水で頻拍になる、脱水が誘因で心房細動が引き起こされた場合、使うべきはワソランではなく生食です。

脱水、敗血症、疼痛など心房細動とは関係無しに頻拍になるべき状況で、たまたま心房細動が併存した場合は、まずは頻拍になる要因への対処です。

洞性頻拍よりも心房細動の方が心拍数に幅が出ますし心房の収縮が悪くなる分だけ頻拍になって心拍出量を稼ぐので、『洞性頻拍だと120bpmくらいだけど、心房細動になって150bpmになった』というのはありがちな話です。

全身状態が落ち着くのを待ちましょう。

また甲状腺機能亢進症の心房細動は、甲状腺への治療をしっかり行わないと再燃を繰り返しますし、甲状腺が良くなると多くの心房細動は自然停止します。

心拍数が早い

ワソランは心拍数を落とす薬なので、徐脈には勿論使いません。

安静時心拍数が60-70bpm程度だと、心房細動としては遅いと感じます。

一般的に、心房細動の安静時の心拍数は110bpmを下回っていれば十分です。

発作性ぽい

ワソランの静注は一時的な効果しかありません。

持続性心房細動では、一時的に心拍数を下げることは出来ますが、効果が切れれば元通りであり、内服薬での調整を目指します。

発作性“ぽい”という表現になるのは、症状の出現時期から『この時間に発作が起きたのかな』と推測できても断定は困難なためです。

心機能が良い

心エコーを確認し、左室収縮が良好であれば安心して使えます。

心機能評価については、こちらも参照下さい。

ただし大動脈弁狭窄症による求心性の左室肥大など心機能は良くても注意すべき状況もあるので注意が必要です。

WPW症候群ではない

ワソランは房室結節の伝導を抑制して副伝導路を抑制しないため、心拍数がめちゃくちゃ早くなる危険があります。

症状がかなり強い

発作性ぽい心房細動に使うと話しましたが、発作性であれば多くは2日もすれば自然停止します。

早ければ数時間で治まります。

そのため症状が重くなければ、あえてリスクのあるワソラン静注を投与する必要もありません。

ワソラン静注の投与の仕方

添付文書には5分以上かけて投与とあるように、ゆっくりと投与すべきです。

急速投与では血圧が下がります

ここでは私がよく行う2通りの投与方法を紹介します。

ワソラン1A(5mg)を

生食 or 5%ブドウ糖50~100mlに希釈して輸液ポンプを用いて15分で投与。

生食 or 5%ブドウ糖20mlで希釈し、ちょっとずつ手動で静注。入れてるか入れていないか分からないくらい、ちょっとずつですよ。

いずれの投与方法にしても、血圧を頻回に測定して下がりすぎないように注意することと、心拍数が十分下がるか心房細動が停止した時点で投与終了です。

5分で入れようとすると結構血圧が下がるので少し余裕を持って投与した方が良いことと、点滴で落とす場合は“うっかり”急速滴下してしまわないように輸液ポンプを用いるのが無難です。

そもそもワソランを使う必要があるのか?

これですね。

急性発症の心房細動のレビューによると、ワソランの研究はとても少ないことが分かります。

少なくともワソランは洞調律を期待できる薬ではないこと、レートコントロールには有効ですが、心室性不整脈、血圧低下、心不全増悪などの副作用が懸念されます。

心拍数のコントロールだけであれば長期的にはβ遮断薬の方が良いです。

症状が重いのならば薬理学的 or 電気的除細動も考慮されます。

また発作を繰り返す可能性を考えると、例えばタンボコール®(一般名:フレカイニド)静注で心房細動が停止した場合には、頓服のタンボコールを処方して次の発作に備えることが出来ます。

これはpill-in-the-pocket法と呼ばれます。

こういった長期管理や今後の再発時の戦略を考える意味でも、ワソラン静注の出番はあまり無いと思っています。

まとめ

心不全がある心房細動にはワソランは使わないで下さい。

少なくとも、これだけ守れば最悪の事態は避けられます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

良ければ、こちらもご覧下さい。

◆参考文献

2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

Gregory Y H Lip et al. Atrial fibrillation (acute onset) BMJ Clin Evid. 2014.

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