ターナー症候群は、医師国家試験でも頻出の病気です。
通常の女性の性染色体はXXの2本ですが、このX染色体のうちの片方が、一部もしくは完全に欠損することで発症する性染色体異常の病気です。
2,500人に一人の頻度のため、日常臨床の中でもしばしば遭遇します。
ターナー症候群では低身長、翼状頸、外反肘などの身体的特徴に加えて、腎奇形、二次性徴の遅れ、甲状腺異常や斜視など多数の病気を併発します。
もちろん循環器疾患もあります。
先天的な心血管の病気である大動脈二尖弁、心房中隔欠損症、大動脈縮窄症など。
しかし、先天性心疾患は小児期に診断が付いていることが多く、成人でいきなり発見ということは少ないのではないかと思います。
成人になってから問題になることは、大動脈瘤の破裂・急性大動脈解離です。
これらは併せて急性大動脈疾患と呼ばれます。
ターナー症候群では、大動脈の拡大が軽度であっても、体格の小さい彼女たちにとっては大きな問題になりえます。
破裂や解離のリスクが高く、30代くらいで致死的な大動脈疾患を発症されます。
中には20代でのStanford A型の大動脈解離の発症の報告もあります。
例えば、上行大動脈が33mmを超えると致死的な急性大動脈疾患のリスクが上昇するという報告があります。
上行大動脈径<30mmが正常範囲内
ですので、通常の成人であれば、33mmはほぼ正常です。
また、ターナー症候群では体格が小さく絶対的な長さで語るとサイズ感が分かりにくいため、体表面積で補正して、大動脈径が25mm/m2でリスクと考える報告があります。
いずれにせよ、大事なことは大動脈がそんなに大きくなくても急性大動脈疾患のリスクがあるということです。
例えば大動脈二尖弁の定期フォローを小児科から循環器内科へ引き継ぐことは、しばしばあります。
もちろん、その中にターナー症候群も有り得るわけです。
心エコーでは多くは大動脈基部しか確認できず、ターナー症候群では大動脈弓部の動脈瘤の頻度も多いことから、CTやMRIなどの画像評価でないと見つけられません。
心エコーのみでは不十分かもしれないのです。
問題は循環器内科でフォローされていない場合で、産婦人科でホルモン補充だけ受けている場合、甲状腺疾患だけ治療中の場合などは大動脈に目を向けられることは無いと言っても良いと思います。
そもそも循環器内科医ですら、ターナー症候群と成人の大動脈疾患のリスクについての認知度は低いです。
私自身の経験としても、循環疾患の患者の引き継ぎをした際に、プロブレムに挙げられていないケースがありました。
無症状の大動脈二尖弁の定期フォローの方でしたが、前任者のカルテにターナー症候群の記載はありませんでした。
二尖弁では上行大動脈のサイズが治療方針に影響するためスクリーニングで単純CTを行うと、30mm強の弓部~腕頭動脈瘤があり、造影すると解離を伴っていました。
え?と思って色々と話を聞くと、ターナー症候群があったというわけです。
ところで、体格が小さい場合にどれくらいの大動脈径で手術適応とすれば良いのかはエビデンスが不十分です。
しかし病気を見つけなければ検討すら出来ませんので、ターナー症候群は成人では大動脈疾患のリスクであることをしっかりと認識した上で適切な画像検査を行い、複数の医師で議論する必要があると思います。
何と言っても、大動脈疾患の多くは破裂や解離するまで無症状で破裂してからでは手遅れのことも多いですから、まずは見つけることが大事です。
というわけで。
ターナー症候群は若年で大動脈瘤破裂や急性大動脈解離のリスクが高い、という話でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
急性大動脈疾患の初期評価については以前に書きましたので、よければこちらもご覧ください。
◆参考文献
2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
GravholtCH,etal. Clinicalpracticeguidelinesfor the care of girls and women with Turnersyndrome:proceedingsfromthe2016CincinnatiInternationalTurnerSyndromeMeeting.EurJEndocrinol 2017;177:G1︲70.
Sofia Thunström et al. Aortic size predicts aortic dissection in Turner syndrome – A 25-year prospective cohort study. Int J Cardiol. 2023.
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