心不全患者の輸液の本体には何を選びますか?
過剰な輸液は害になるため一日一回の静注薬の使用だけならルートロックを選択することもあるでしょう。
しかしカテコラミンや他の薬剤など輸液本体がキープのために必要な場面も多いです。
仮に10ml/hとしても一日で240ml。それなりに入ります。
理由があって選択することが大事なので必ずしも生食を推奨するわけではありませんが、Na負荷が云々といってブドウ糖を繫ぐ人は、しばしば薄い輸液の弊害を完全に無視しているため、私が生食を選択する理由を書きます。
低Na血症を意識していますか?
輸液関連で多少の低Na血症は軽視されがちと感じています。
しかし高齢者のNa≦135mEq/Lは骨折リスクが増えます。
135です。結構あり得る数値です。
ステロイド内服よりも骨折リスクが高いとの報告もあるくらいですから、低Na血症は意識すべき案件です。
しかし低Na血症の症状は重症にでもならなければ明瞭では無く、何となくふらついたり注意力が落ちて転びやすくなる程度です。
一日数分の回診では変化に気付けないと思います。医師が症状から軽度の低Na血症を見抜くことは困難です。
大丈夫そうだからNa:133mEq/Lだけど様子見……
そうこうしているうちに転倒が増えるために骨折します。
ちなみに転倒が増える以外にも低Na血症だと破骨細胞の活動を上げる、ビタミンD低下と関連があるなどの要因も骨折と関連します。
特に慢性腎臓病だと尿の濃縮力が落ちているので、三号液など薄い輸液を繋ぎ続けるとすぐに低Naになります。
心不全では慢性腎障害の合併も多い上に、フロセミド静注、心不全そのものも低Na血症に傾きがちです。
Na:133mEq/Lと低くなるようなら、濃い輸液にした方が無難です(余分には入れないことが一番大事なのでルートロックの可能性も常に摸索します)
心不全にNaの濃い輸液を入れても良いの?
心不全に塩分(NaCl)が多いと良くない気がするのですが、どうなんでしょう。
実は心不全治療そのものへの塩分制限のエビデンスは乏しいというか、少なくとも食事療法においてはランダム化比較試験がない(実施も困難)であり結果も様々です。
塩分制限によって血圧が下がり、血管内volumeが減り、摂取カロリーの減少も同時に達成できて良いこと尽くめな気もしますが、過剰な制限でもアウトカムが変わらなかったり、逆に入院が増えるという結果もあります(しかし食事は研究デザインに限界があるので賛否あるのですが)。
とはいえ食事は一般に心不全関係なく塩分制限が良いので、制限するのが妥当なところです。
しかし『急性期の点滴の一時的なNa負荷』については更に微妙な話になってきます。
何となく制限した方が良い気もしますが、逆にうっ血性心不全に高張食塩水を入れると利尿剤の有効性が高まる報告もあります。
低Na血症だと血清浸透圧が落ちるために間質から水を引きにくくなるため、Na濃度の高い輸液とフロセミド静注を組み合わせて一気に引き切ろうというコンセプトです。
主流な治療ではないので日常診療であえて高張食塩水を入れる必要はありません。
それに低Na血症で間質から水を引きたい場合には、現在ならばトルバプタンの選択肢もあります。
とはいえ、あえてNa負荷を行う有効性を示す研究もあるため、フロセミド静注を使うのであれば急性期の多少のNa負荷を気にしすぎる必要は無いと思います。
むしろNa濃度の薄い輸液を使って低Na血症にしてしまうことは、フロセミド静注の効果を減弱させてしまうかもしれませんね。
心不全患者に5%ブドウ糖を使う時
高Na血症の時です。
大抵はトルバプタンの投与後ですが、併存症が無くて飲水行動が出来る人では点滴の5%ブドウ糖液で補正することは稀です。
また、重症の挿管例などで完全静脈栄養(TPN)を使う場合、既製品では基本的にはNa濃度が低く、3号液に相当するイメージです。
しかし重症では、しばしば腎機能も悪くて既製品ではなく組成を計算してTPNを使いますし、そもそも可能な限り経腸栄養にしますからね。
アミオダロン静注のローディングには添付文書に倣って5%ブドウ糖液を使いますが、これは輸液本体の話ではありません。
これはこれで低Naで困るものですが……
輸液のメインに5%ブドウ糖や3号液、それに相当するNaの薄い輸液を使うことはほとんどないか、低Na血症の心配が余りない場合にTPNを既製品で済ませたい時です。
まとめ
私は多くの場面で心不全患者には生食を繫ぎます。
もちろん、治療方針の決定には今日触れた内容以外の様々な要因が絡むため一概には言えません。
しかし低Na血症、Na≦135mEq/Lは骨折リスクであることは念頭に置いた方が良いと思います。
慢性腎臓病がある場合は特に注意です。
Na負荷や水分負荷を気にする場合は、無理に本体は繋げずにルートロックも検討して下さい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
◆参考文献
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