いきなりですが、こちらの心電図をご覧ください。
とある高齢の男性、動悸を主訴に受診して、以下のような心電図でした。
診断はどうでしょう?
P波らしきものがありますが…
多くの心電図の解説は、要約すると『心電図の細かい所まで見ましょう』となるのですが、なかな難しいです。
日常診療において、全ての心電図と長いこと睨めっこするわけにはいきません。
しかし、患者を診療する上では、必ずしも心電図『だけ』と向き合う必要はありません。
今日は不整脈の考え方のコツについて解説したいと思います。
最初に結論を言うと
- 90歳で心拍数140bpmは、普通は起こらない
- “2:1不整脈”は見逃しやすい
この2点を抑えて下さい。
その心拍数は最適なのか?
まず、心拍数を見ます。
当たり前なんですが大事です。
今回の心電図では140bpmほどですが、高齢者が普通になり得るものでしょうか…?
敗血症性ショックなどの瀕死の状態なら分かります。
しかし「動悸がするんです」と普通に話せる人の心拍数ではありません。
心拍数が早いのに、それに見合うだけの異常な所見がないと『おかしい』状態です。
これは不整脈の可能性を疑うきっかけになります。
2:1の不整脈は見逃しやすい
例えば、この心電図は心房粗動とすぐに指摘できますよね?
伝導比が4:1とか、5:1になると、変化している部分が分かりやすいです。
しかし、2:1の心房性の不整脈は、一見すると規則正しくP波が出ている様に見えて、洞性頻拍と勘違いしやすいのです。
- 『P波みたいにみえるもの』
- 『QRSやSTに隠れて分かりにくいもの』
の2つで構成されるために、後者を見落としやすく、QRSの前に必ず出てくる『P波みたいにみえるもの』が目立って洞性頻拍のように見えてしまうのです。
しかし逆に言えば、心拍数と患者の状態から洞性頻拍にしてはおかしいと思ったら、次は2:1の伝導比の心房性不整脈を考えれば良いのです。見逃しやすいのですから。
冒頭の心電図をもう一度確認してみましょう。
調律を確認するにはⅡ誘導がいいですが、V1も参考になります。
そこで、V1の『P波みたいにみえるもの』のちょうど真ん中に注目します。
真ん中を見るのは、見逃しやすい2:1不整脈の可能性を考えるからです。
すると、今回の心電図ではST部分が滑らかではなくて、規則正しく“でっぱり”がありますよね?
あれ?と思いⅡ誘導を確認すると、やはりST部分に”でっぱり”があります。
2:1不整脈と気付くきっかけになります。
あとは心房粗動についての知識があれば、隠れている鋸歯状波に気付くのです。
最初の心電図をもう一度貼りましょう。
考え方はもう大丈夫ですよね?
この心電図は、伝導比2:1の心房粗動です。
少し余談
今回の不整脈は、心房粗動の中でも通常型心房粗動と呼ばれるものです。
この特徴は
- 三尖弁輪を反時計方向に回転するマクロリエントリー(心尖部から見て反時計回り)
- 心房のレートは250-300bpm程度=2:1伝導だと心室のレートは125-150bpm
- 薬剤抵抗性だが、カテーテルアブレーションでの根治率は高い(90-95%程度)
厳密な診断には心臓電気生理学的検査を要しますが、12誘導心電図でもおおよそ推測は出来ます。
実はこの患者さんにはカテーテルアブレーションを施行しました。高齢でしたが。
1ヶ月に1回程度の発作で本人も家族も困っていましたし、一方で余病は少なく、普段は畑仕事をするような元気な方でしたので、何とかしたいと思いました。
勿論、通常型心房粗動の読みで薬剤でコントロールしにくいこと、アブレーションの奏効率は高いだろうこと、手技時間が短く合併症のリスクも低い見込みだったことも大きいです。
「死んでも良いから何とかして」と仰っていましたが、結果的にはアブレーションは成功し、以降は発作で受診されることはありませんでした。
正しく診断することで、高齢であっても患者や家族のためになる治療の提案をしたいものです。
まとめ
心電図の読影は波形そのものだけに注目しがちですが、まずは患者さんの状態との比較です。
急に動悸が出てきた人で
「洞性頻拍にしては心拍数が多いな?」
「普通に会話してるし、そんなに重症には見えないけど…」
と思ったら、2:1不整脈の可能性を考えて、Ⅱ誘導、V1誘導に注目して下さい。
心房粗動や心房頻拍を見つけられる確率が上がると思います。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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参考文献
Mary Rodriguez Ziccardi, et al. Atrial Flutter. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls. Publishing; 2022 Jan. 2021 Aug 11.
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