心電図をどう学ぶか

心電図は難しいです。

それなのに、緊急疾患や一発勝負みたいな場面が多くて循環器内科ではない人にとってストレスは大きいと思います。

今日はそんな取っ付きにくい心電図に関する話です。

循環器内科医は具体的にどれくらい読影して、どう学んだのかと私自身の経験を振り返りつつ、オススメの書籍や学ぶ上での注意点を書きたいと思います。

循環器内科医はどれくらい心電図を読むの?

私が専攻医の時には、院内で記録された全ての心電図を循環器内科で割り振って読影していたため、1週間に100~200枚は読影していました。

もちろん、自身の外来や入院の担当患者の心電図は別で見ます。

1週間に150枚としても、1年間の約50週間では7,500枚ほど見ていることになります。

もちろん異動先によってはそんなに心電図を読影しないこともありましたし、一方で心電図の読影バイトで1週間に500枚ほど読む時期もありました。

人によると思いますが、循環器内科の勤務医を数年続けると、何千~何万枚もの心電図を読影することになります。

心電図だけを読影する限界

心電図の多くは読んでお終いで、フィードバックはありません。

どうしても気になれば誰かに聞くことはあるものの、知らなくて気付かない所見はそのままです。

読影した枚数が多いから読めるようになるわけではありません

さらに大事なことは『心電図で○○という所見 = △△という病気』という単純な話ではありません。

感度・特異度の問題があるため、一見してセーフに見える心電図も、それだけでは何も無いとは言い切れないことも多数あります。

月並みな話ですが、循環器内科では心電図を記録する人の初診から治療まで診るので、症状、心エコー、冠動脈造影、治療後の経過など一連の流れを経験します。

典型的な症例は沢山経験しますし、心電図で大した異常が無いけど重症な症例も経験します。

そうなると心電図の理解が深まるだけではなく、心電図の限界を知ります

さらに所見が無いことが重要なこともあります。

例えば、心エコーでは左室肥大があるのに、心電図は左室高電位ではなく、”普通っぽく”見える。

そうすると思うわけです。「もしかして心アミロイドーシスかな?」

これは心電図の勉強だけでは分かりません。

心電図と並行して、心電図以外の角度から学ぶことで会得できると思います。

心電図を学ぶ最初の一歩

心電図では全ては分からないとはいっても、何も知らなければ限界を知ることはありません。

適当に心電図を見ても学びはありませんが、基礎的な知識を付けた上で臨むと、日常的な心電図の読影で復習することができます。

少し難しい所見を自分で発見できれば、印象に残って忘れないでしょう。

そのため早い段階で基本は学んでおいた方が絶対に得です。

心電図に関して、よく研修医の先生からオススメの本を聞かれますが、コレについては断言できるものがあります。

やってみようよ!心電図: これさえわかれば必ず読める! (DVD BOOK)
付属資料:DVD-VIDEO(1枚)

絶対にこの本を薦めています。

分かりやすいのは勿論そうですが、他にも理由は大きく三つあって

①実践的な内容からスタートするので読みやすい

心電図の工学的な話や仕組みなど、興味がない人からしたらどうでもいい話は後ろの方にオマケみたいに書いてあります。

私が言うのもおかしな話ですが、とりあえずは、その部分は読まなくても良いと思います。

②分厚くない

ページ数の多い本は、買うところからして抵抗がありますよね。

この本は全159ページと少なめな上に、心電図の練習問題が出てくるので文字数は少なく、最後の方は読まなくても良いのでサラっと読めて繰り返し読みやすいです。

心電図は練習問題を何度も読むことに意義があります。

③マスターできれば循環器内科の若手としても十分な内容

循環器内科を続けて色んな研修医を見てきましたが、皆さん分厚い本を持っているものの、大抵はもっともっと初歩的な部分で躓いています。

この本は薄いので確かに全ては書かれていません。

網羅されていないと不安と思うかもしれませんが、割り切って下さい。

そもそも、この本自体も循環器ではない人からすると、マスターするのは難しいです。

でも大丈夫です。

循環器内科にならないなら、この本の半分くらい把握するだけでも十分な武器になります。

やってはいけないこと

心電図に限らないですが、知識があること=稀な事象を知っていることと勘違いしている人がいます。

例えば心電図で言えば、左の気胸では陰性T波が出る云々と。

当たり前の話ですが気胸は胸部X線で診断すべきです。

このような豆知識を収集することに躍起になってはいけません。

心電図でまず大事なことは、致死性不整脈と急性心筋梗塞を見落とさないことです。

もちろん、心房細動や発作性上室性頻拍などよく見る疾患を判断できること、心房粗動と洞性頻拍と見誤らないこと、そういった基本をしっかりと抑えることが大事です。

繰り返しますが、心筋梗塞の心電図は特に大事なので、何枚読んでも学びがあります。

心電図変化があれば絶対に見逃してはいけませんし、急性冠症候群の中には有意な心電図変化がない人や非特異的な変化を起こす人もいます。そういった経験も必要です。

心筋梗塞の心電図ばかり読んでも、知識が増えた感じがしないかもしれません。

しかし臨床で役立つのは、こういった地味で基本的なことを高い精度でこなせることなのです。

まとめ

というわけで心電図の話でした。

まず心電図の基本を系統的に学ぶことで、分からない場合でも異変に気付き、何気ない1枚の心電図の読影の価値が変わります。

心筋梗塞などの重大な疾患やよく遭遇する疾患の診断精度を上げ、更に余裕があれば心電図側の勉強だけでなく、他の検査所見とセットで確認したり、疾患側からの勉強も大事になると思います。

以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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