DOACの方が薬価は高いものの出血リスクが低く管理が楽なため、どちらでも良い状況であればDOACを選択する医師が多いと思います。
しかしDOACは不適切でワルファリンでなければならない症例もあるのでまとめます。
機械弁
機械弁を留置後はワルファリンです。
例えばDOACの1つであるダビガトランとワルファリンの比較試験では、ダビガトランの方が血栓イベントも出血イベントも多い結果となっています(RE-ALIGN試験)
その他にもDOACの方が劣る報告は多数有り、機械弁の患者にはDOACではなくワルファリンを使用します。
僧帽弁狭窄症+心房細動
心房細動のうち弁膜症性心房細動はDOACではなくワルファリンを使用します(非弁膜症性心房細動はどちらでも可)。
『弁膜症性』という言葉はややこしいのですが、機械弁もしくは中等度以上の僧帽弁狭窄症(MS)を指します。
例えば大動脈弁狭窄症も弁膜症の一種なのですが、『弁膜症性心房細動』の定義には当てはまらず『非弁膜症』なのです。
生体弁の留置後も『非弁膜症性』です。
ややこしいですね。
機械弁は心房細動の有無に関係なくワルファリンが必要なので、実際には僧帽弁狭窄症+心房細動がワルファリンを選択すべき状況です。
その根拠として、例えば中等度~重症のMSでワルファリンとリバーロキサバンを比較した試験では、リバーロキサバンの方が脳梗塞や塞栓イベントが多く、出血イベントは同等でした。
DOACが使えない腎不全
DOACはそれぞれ一定の腎機能障害があると使用できなくなります。
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドラインにまとまったテーブルがあるので引用します。
ただし最新の情報は各添付文書を参照ください。
腎機能が一定以上悪いと、DOACは使えないためワルファリンを使わざるを得ません。
ただし、透析患者の心房細動には注意が必要です。
透析患者にはDOACを使用できないのでワルファリン、と言いたいところですが、実は透析患者の心房細動にワルファリンを投与しても予後が改善しないばかりか脳出血が増えてしまい、むしろ悪いのではないかという報告があります。
そのためガイドライン上も透析患者の心房細動には特別な理由が無い限り抗凝固薬療法を行わないのです。
根拠となった試験のTTR(time in therapeutic range;ワルファリンが有効なPT-INRであった期間の割合)がイマイチではないかなどの反論はあるものの、現時点で透析患者の心房細動に対して抗凝固薬療法は積極的に推奨されるものではありません。
ただし心房細動アブレーションの前後に一時的に使用したり、塞栓症を繰り返す心房細動に対して使うケースは稀ながら存在します。
透析学会のガイドラインでは原則禁忌、循環器学会のガイドラインでは原則禁忌なものの状況によって使用も可能というスタンスです。
市中病院では稀な疾患
ここからは市中病院では遭遇する頻度が低い疾患となるためオマケと思って下さい。
抗リン脂質抗体症候群のtriple positive
抗リン脂質抗体症候群(APS)はループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体IgG又はIgM、抗カルジオリピン β2グリコプロテインI複合体抗体IgG又はIgMの3つの抗体のうち、いくつ陽性項目があるかによってsingle positive、double positive、triple positiveと呼ばれます。
この中でも血栓症を起こしたtriple positiveはワルファリンの方がDOACより優れている報告があるため、ワルファリンを選択します。
詳しくはこちらも参照下さい。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
CTEPHに対してDOACの保険適応が通っていないためです。
しかし急性肺塞栓からCTEPHに移行するケースが多いと思いますので、肺塞栓の二次予防という観点ではDOACも使うことが可能です。
CTEPHは一般的な市中病院では対応困難な難病のため、専門施設に紹介することになると思いますので、連携している病院間で確認してもらうとベストです。
実際にはDOAC内服中のCTEPH患者はいますし(急性肺塞栓の二次予防としての使用)、KABUKI試験というエドキサバンとワルファリンのランダム化比較試験では同等であったことから、今後はDOACでも保険が通るかもしれません。
DOACが無効だった血栓症
プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などの血栓素因は、それ自体がDOACを禁止するものではありません。
大体はDOACでも良いと思いますが、DOAC内服中でも再発してしまった場合や重篤な肺塞栓など一部ではワルファリンを使った方が良いかもしれません(明確なエビデンスでは無いと思いますが)。
補助人工心臓(VAD)
基本的にはワルファリンを使います。
まとめ
ワルファリンを使用すべき病気として、機械弁、僧帽弁狭窄症+MS、腎障害を抑えておけば市中病院での多くの場面では対応可能と思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
Tom Langenaeken et al. DOACs in the Anticoagulation of Mechanical Valves: A Systematic Review and Future Perspectives. J Clin Med. 2023 Jul 28;12(15):4984.
Mohamed N Al Rawahi et al. Novel Oral Anticoagulants in Patients With Atrial Fibrillation and Moderate to Severe Mitral Stenosis: A Systematic Review. Cureus. 2023 Jan 1;15(1):e33222.
Kazuya Hosokawa et al. A Multicenter, Single-Blind, Randomized, Warfarin-Controlled Trial of Edoxaban in Patients With Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension: KABUKI Trial. Circulation. 2024 Jan 30;149(5):406-409.
Khalid Al Sulaiman et al. Apixaban Use in Patients with Protein C and S Deficiency: A Case Series and Review of Literature. J Blood Med. 2022 Mar 3:13:105-111.
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン
コメント