こんにちは、すずねこです。
今日は急性心筋梗塞の救命率を大幅に上げたカテーテル治療について、心筋梗塞の治療の変遷などふまえて話したいと思います。
分かりやすいようにイラストも交えて説明しますので、最後まで読んでいただけますと幸いです。
急性心筋梗塞とは何か
まず、急性心筋梗塞とはどういう病気か解説したいと思います。
『急性』は急に起きる病気のこと、『心筋』は心臓の筋肉であることは何となく分かりますが、『梗塞』とは聞き慣れませんね。
梗塞とは血管が詰まってその部分の組織が酸素不足や栄養不足で死んでしまうことです。
これを壊死(えし)と言います。
そのため急性心筋梗塞とは、急に心臓を栄養する血管が詰まって、心臓の筋肉が壊死する病気なのです。
心筋が壊死すると、ヒトの生命活動にも大きく影響します。
傷害される心臓の範囲にもよりますが、かつて急性心筋梗塞は30%以上が死亡すると言われていました。
心臓の一部だけの傷害であれば残りの部分で何とかなるのでは?と思うかもしれません。
しかし常に激しく動いている心臓では壊死した部位が破裂したり、心臓全体が止まってしまう不整脈が出たり、心臓の動きが悪いことで血液の循環が悪くなり心不全で亡くなる人もいます。
生き残った70%の人も少なからず後遺症を残し、心不全で苦しむことになります。
急性心筋梗塞は怖い病気と言われますが、具体的には高い死亡率と重い後遺症を残すため“怖い”と表現されるのです。
急性心筋梗塞を引き起こす機序
急性心筋梗塞の発症にはいくつかの機序がありますが、最も多い原因は動脈硬化です。
動脈硬化とは、高血圧、糖尿病、コレステロールの異常、喫煙などにより、血管壁の中にプラークと呼ばれる、油のようなゴミのような固まりが蓄積していき、血管が細くなっていくことです。
血管が細くなっていくと、いつかは詰まります。
それが心臓の血管で起こしてしまうと、心筋梗塞になってしまいます。
しかし、この説明は実は少し違います。
急性心筋梗塞の7割くらいは、そんなにプラークが付いていない状態から急に詰まります。
段々と細くなって詰まる方が少数派なのです。
これにはプラークの性状が関係します。
プラークは大きく2種類に分けられ、分厚い膜で包まれた安定プラークと、薄い膜で包まれた不安定プラークがあります。
不安定プラークは少し大きくなっただけでも簡単に膜が破れてしまいます。
これをプラーク破裂と呼びます。
血管の外側の壁はかなり固いので、通常は内側の壁が裂けますが、体は血管が破れて“出血している”と勘違いするので止血のために血小板が集まってきます。
その結果、血栓と呼ばれる血液の固まりが形成されます。
心臓の血管は太くても4mm程度と細いので、そのまま詰まってしまうのです。
あまり血管が細くない状態から急に詰まるので前兆なく心筋梗塞になる人も多い点は、この病気の怖いところでもあります。
急性心筋梗塞の治療
血栓が問題ならば、それを溶かす治療によって再び血液が流れるようにすれば良いです。
心筋梗塞後や心臓の血管が細くなっている人には、俗に言う“血液サラサラ”と呼ばれる血液が固まりにくくなる薬を処方されます。
このような薬はいくつか種類がありますが、総称して抗血栓薬と呼びます。
しかし飲み薬には即効性はありません。
そこで過去には緊急の治療では注射の薬を使っていました。
血栓溶解療法と呼ばれ、1980年代ころまでは主流な治療方法でした。
これにより急性心筋梗塞の死亡率は30%→20%程度まで低下しました。
血栓溶解療法は確かに一部では有効だったものの、結局心臓の血管が再開通しない場合があること、血液を溶かす一方で出血しやすくなる副作用が問題で脳出血や内蔵の出血で命を落とす人もいました。
さらに医療が発展して登場した治療がカテーテル治療です。
カテーテルとは医療用の細い管のことで、精巧なストローと考えてもらうと良いでしょう。
手首や足の付け根(鼠径部)の血管から2-3mm程度の細い管を挿入して、心臓の血管まで辿り着きます。
中に治療用の道具を通すことで、心臓の血管を内側から直接開通させます。
当初は折りたたまれた風船で内側から広げるだけでしたが、現在ではステントという金属の筒を入れて、まるでトンネル工事のように血管を内側からガッチリ広げた状態で固定します。
直接開存さるため、全身に薬を注射するよりも効果が高く、副作用も出にくいです。
このカテーテル治療を行った場合の心筋梗塞の死亡率は5-10%程度まで低下することになり、早期に治療をした場合は心機能も保たれるために後遺症も少なく、退院後に心不全で苦しむことも少なくなりました。
例えば東京CCUネットワークでの死亡率の推移を見てみましょう。
血栓溶解療法の時代では死亡率は20%程度でしたが、カテーテル治療が主流になるにつれ、死亡率が低下していくことが分かります。
ちなみにCCU;Coronary Care Unitとは急性心筋梗塞など心臓病に特化した集中治療室のことです。
急性心筋梗塞は治療後も急な病状悪化が起こりやすく、心電図や各種モニターに加えて急変対応に熟練したスタッフで構成されます。
もちろん休日夜間も循環器内科医など心臓の専門の医師が少なくとも一人は常駐し、急変に備えます。
カテーテル治療だけでなく、このCCUの発達も心筋梗塞の救命率を上げた重大な要因だと思います。
カテーテル治療の限界
カテーテル治療は血管を開通させる治療方法であって、心臓の筋肉を再生させるわけではないため、発症から治療まで時間が掛かって既に壊死している部分は救えません。
心臓が止まっていたり、破裂した状態で搬送される人もおり、この状態から助かる確率は非常に低いです。
カテーテル治療は細い管で操作するため単純な構造の血管の治療しかできず、複雑な病変では開胸してバイパス手術が必要になる場合もあります。
またカテーテル治療は抗血栓薬との併用が前提なので、少なからず脳出血で亡くなる人もいます。
カテーテル治療は急性心筋梗塞に対する最も有効な治療法ですが、限界もあるのです。
さらに近年増えてきた高齢者では心臓以外の様々な問題があり、心臓の治療だけ発展しても全てが解決するわけではありません。
高齢者は治療の副作用が出る頻度も多く、高齢者ばかりを扱う病院では、むしろ死亡率は上がってしまいます。
これが現在の治療の限界です。
救命率は劇的に改善したものの発症してからの治療には限界があります。
出来れば急性心筋梗塞にならないよう生活習慣病を管理して予防に努めたいものですが、それはまた別の機会に詳しく話しましょう。
まとめ
急性心筋梗塞に対する緊急カテーテル治療について話しました。
ちなみに各病院のホームページには治療成績が書かれていることもありますが、受け入れる患者の状態が違うので単純な比較は出来ません。
治療成績こそが評価の全てになると病院は重症者と高齢者を断ることになりますが、一人の循環器内科医としてそのような社会にはなって欲しくないと思っています。
実際のところ急性心筋梗塞は早く治療することが大事なので、選り好みするよりも近隣の病院に早く受診することが大事です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
◆参考文献
急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)
東京CCUネットワークHP http://www.ccunet-tokyo.jp/index.html
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