散歩の科学

たかが散歩と侮ることなかれ。

散歩の科学的メリット

脳機能

  • 創造性の向上:スタンフォード大学の研究では、散歩中や散歩直後に創造性テストのスコアが高くなることが示された。[1]
  • 記憶力の維持:週3回40分のウォーキングにより海馬の萎縮を抑制した。[2]
  • 記憶の長期保持:暗記課題の後、散歩をした方が記憶の定着が良かった。[3]
  • 学習:身体活動後の脳波ではP3成分が強く表れる。刺激処理や記憶更新など認知機能に良い影響[4]

精神面

  • うつ病の予防:身体活動(ウォーキング含む)が多い人ほど、うつ病になりにくい。年齢や性別によらず予防効果がある。[5]

  • うつ病の治療:イギリスのNICEガイドライン2022年版では、軽度~中等度うつに対して散歩などの身体活動は「第一選択の治療」として推奨(ただしstructured exerciseとあるので指導者付きが望ましい)。[6]

身体的健康

  • 血圧:散歩により血圧が5mmHg程度下がる。[7] 降圧剤を一つ内服するくらいの影響
  • 血糖:散歩により血糖コントロールが良くなる。[8]
  • 心血管病の予防:ウォーキングにより心血管病および死亡率が低下。[9]

 

すごく沢山のメリットがありますね。

散歩と偉人

  • アリストテレス(古代の哲学者):歩きながら弟子たちと議論した。
  • イマヌエル・カント(プロイセンの哲学者):毎日午後4時からの散歩を厳格に実施。あまりにも鋭角過ぎて「カントの散歩で時計を合わせた」逸話が生まれるほど。
  • ゲーテ(ドイツの詩人):散歩を通じて作品が生まれたとされ、詩劇『ファウスト』では心境の葛藤が散歩を通じて表現される。
  • スティーブ・ジョブス(Apple創業者):重要な会話や意思決定をオフィスではなく屋外を歩きながら行う「ウォーキング・ミーティング」を実施。

 

散歩を重視する歴史上の偉人は多いようで、調べると次々と出てきます。

どれだけ散歩すれば良いのか

多くの研究の標準的な時間は1日30分程度です。

普通のペースで歩くと軽度~中等度の有酸素運動に該当します。

WHOの推奨する運動ガイドラインでは、成人(18-64歳)では中等度の強度の有酸素運動を週150-300分が目安ですので、運動強度を上げる意味でも少し速いペースを意識するのは良いでしょう。[10]

複数回に分けて実施することが望ましいのですが、週末にまとめて行う方法でも効果ありと記載されています。

一気に長時間行う場合はケガをしないように強度やウォーミングアップには注意してください。

体力維持を考えると毎日1時間でも良いと思います。

一方で体力がない場合や運動習慣がなかった場合、いきなり多い運動量は危険です。

ゆっくりとしたペースで10分間から始めてみたり、朝10分、昼10分、夕10分など分割して始めることも大事です。

無理をして体を壊しては元も子もありませんので。

また、ウォーキングの量よりもペースが速い方が心血管病のリスク低下に大きく寄与する報告もあるため、忙しくて短い時間しか確保できないならば速度を上げて良いかもしれません。

ただし病気によっては運動不可の場合もあるため主治医と相談はしてください。

森林浴について

英語論文でもShinrin-Yokuと表記され、日本特有の文化のようです。

精神的に安定する、集中力が向上するなどの精神や脳神経への影響だけでなく、血圧が下がる、心拍数が下がる、レニン・アンジオテンシン系の活性が下がる(いずれも心臓病に対して有利に働く)ため、身体的健康にも有効です。[11]

都市でのウォーキングでも健康にはもちろん有効ですが、選べるなら自然豊かな場所を歩くと良いでしょう。

そもそも「身体活動」って何?

文献上、身体活動(physical activity)とは「骨格筋によって生み出される身体の動きで、エネルギー消費を伴うすべての活動」と定義されています。[12]

もちろん散歩も該当します。

また運動(exercise)は「計画的で構造化され、反復的な身体活動で、体力の向上や維持を目的」と定義されるので、散歩の時間を確保するよう計画して習慣的に行っているのであれば、運動にも該当します。

まとめ

散歩は色んなメリットがあります。

私自身も仕事の空き時間に5-10分くらい外を歩いて気分転換したり、カテーテル手術のある朝に軽いウォーキングを取り入れて集中力の向上に努めています。

たかが散歩、されど散歩。

 

参考
  1. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014 Jul;40(4):1142-52.
  2. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Feb 15;108(7):3017-22.
  3. Curr Biol. 2016 Jul 11;26(13):1722-1727.
  4. Nat Rev Neurosci. 2008 Jan;9(1):58-65.
  5. Am J Psychiatry. 2018 Jul 1;175(7):631-648.
  6. Depression in adults: treatment and management. NICE guideline 2022.
  7. Hypertension. 2005 Oct;46(4):667-75.
  8. Diabetes Care. 2013 Feb;36(2):228-36.
  9. Br J Sports Med. 2008 Apr;42(4):238-43.
  10. Br J Sports Med. 2020 Nov 23;54(24):1451–1462.
  11. Int J Environ Res Public Health. 2017 Jul 28;14(8):851.
  12. Public Health Rep. 1985 Mar-Apr;100(2):126-31.

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