心タンポナーデは即座に心停止するリスクがある恐ろしい疾患です。
初期の立ち回りが予後に大きく影響すると思います。
ただ、心嚢液がある≠心タンポナーデである点には注意が必要です。
心タンポナーデになるかどうかは心嚢液の貯留するスピードが大事です。
ゆっくり溜まる場合は500mlほど貯留しても心タンポナーデになりませんが、一方で急速に心嚢液が溜まる場合は少量でも心停止のリスクがあります。
緊急心嚢ドレナージが必要になる場面は、Stanford A型の大動脈解離、心筋梗塞による心破裂、アブレーション時の合併症などの頻度が多いと思います。
A型解離でのドレナージは以前別の記事でも紹介しましたが、今日は緊急感に焦点を当てて話せればと思います。
症例
胸痛を主訴に受診、苦悶様の表情。
心電図や心エコーでは特記所見なく、診察中に便失禁がありました。お腹も痛いとのこと。
一元的に説明しがたい、不可解な症状の組み合わせで重篤感がある場合、大抵は大動脈解離です(経験談)。
そのため即座にCTへ。
単純CTの撮影時点で心嚢液を認め、まだ大動脈の情報ははっきりしないものの大動脈解離を確信するとともに、緊張感が走りました。
最初の心エコーでは心嚢液を認めなかったため、急な心嚢液の出現=心タンポナーデのリスクがあるからです。
造影CTの準備中に、すぐに各所に連絡し心嚢ドレナージと挿管の準備を依頼しました。
この時点で血圧は70mmHg台。
心タンポナーデだった場合は補液やノルアドで時間を稼ぐことは難しく、心停止してからではリカバーも困難です。
実際にエコーを当てて穿刺できるか、本当に穿刺するかどうかは別にして、空振りでも良いのでドレナージを即座に行えるようにしないと間に合いません。
予め道具の準備を依頼していたため、造影CTで上行大動脈の解離を確認しCT室を出た後は、即座にドレナージへ。
この時、患者はぐったりしていて意識の確認がしにくい状況だったため、スタッフ一人に頭側についていてもらい頻回の意識の確認を行いました。
モニターのアラームやマンシェットでの血圧測定だけでは心停止を即座に判断できないためです。
前胸部から心膜を穿刺し、40mlほどの血性心嚢液を引くと、血圧は150mmHg程度まで上昇。
バイタルに余裕が出てきたため落ち着いてA-lineを挿入し降圧剤を投与。
緊急手術を行うには他院へ搬送の必要がありましたが、心嚢ドレーンとA-lineを繋いだ状態で、急変に備えて心嚢ドレナージを行うための50mlシリンジを何本か持ち、比較的安定した状態で送り届けることが出来ました。
一分一秒を惜しむ理由
Stanford A型の大動脈解離で、最初の心エコーで心嚢液はなく、CT撮影時に心嚢液の出現を認める症例はしばしば経験します。
CTを撮影して救急外来に戻った直後、心停止してしまった症例もありました。
もちろん慌ててドレナージを行うのですが、しばしば心嚢内で血液が凝固して、穿刺しても逆血が得られず解除できない事も経験します。
こうなると循環器内科としては手が出せません。即座に開胸するしか救命の道はないのです。
特に心臓外科が無い病院では、心嚢内で血液が凝固してドレナージ不能になる前に引けるかどうかが勝負だと思っています。
心停止して挿管も必要になると、同時に処置を行うには急変に慣れたスタッフが沢山必要です。
後手に回るほど状況は厳しくなってしまうので、可能な限り先手を打ちたいのです。
緊急心嚢ドレナージをいつ学ぶのか
たまに若い先生から聞かれます。
私の場合、最初の緊急ドレナージは医師5年目(循環器3年目)でした。
A型解離の診断がついたCT室からの帰室後に、救急外来で心肺停止となった患者です。
当直帯で他の循環器医師はおらず心臓外科も院外から呼び出しの状態です。
それ以前には癌性心嚢水を片手で数えられるくらいの穿刺経験しかなかったものの、自分が穿刺できなければ救命できない危機的な状況でした。
ただ何も準備をしていなかった訳ではありません。
こういった緊急事態はいつ遭遇するか分からないため、教科書を何度も読み、実際の手技のシミュレーションも頭の中で何度かしていたので、怖気ることなくに処置に臨みました。
このような緊急の処置を順序だてて学ぶ機会はありませんし、熟練した医師から解説を聞きながら行うこともありません。
若者が最初に経験するタイミングは、他に処置できる医師が誰もいなくて、今この場で自分が処置できなければ救命できない場面です。
この最初の1回目で成功できるように、いつ有事が訪れても良いように、普段から勉強して準備するしかないのです。
まとめ
心タンポナーデで緊急のドレナージが必要な場面は、少しの遅れが大きな差になると思います。
血圧70mmHgならノルアドレナリンで粘れば良いじゃん、では無く疾患特性を理解した上で素早く対応したいものです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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