【胃潰瘍だけじゃない】鎮痛剤と心血管リスクについて【湿布は安全?】

腰が痛い、肩が痛い、首が痛い。

痛みは人にとって永遠の課題です。

若くても年をとっても、体の色んな場所が痛くなって、痛み止め(鎮痛剤)を使う機会は誰にでもあると思います。

薬局でも簡単に手に入り、病院に行けば沢山処方されるので、安全な薬かと思いきや、実は鎮痛剤には副作用が多いのです。

インターネットで調べると『痛み止めで吐血!』という記事もあるくらいです。

確かに痛み止めの使いすぎで胃潰瘍が出来て吐血するケースはあります。

しかし、その他にも一般的なサイトでは、あまり触れられていない多くの問題があります。

我々循環器内科からすると、心不全・心筋梗塞などの心血管リスクは気になるところです。

今回は、その鎮痛剤の功罪について説明しようと思います。

鎮痛剤の種類

大きく分けると

  1. アセトアミノフェン
  2. NSAIDs
  3. オピオイド
  4. その他

という感じになります。

アセトアミノフェンは商品名で言うとカロナール®が有名です。

オピオイドとは、主に麻薬のことです。
手術や癌の痛み止めとして使うので、一般の人が使用する機会は少ないですし、基本的には病院で処方を受けないと手に入りません。

1つ飛ばしたNSAIDsは見慣れない単語かと思います。

実は身近な薬のカテゴリーで、ロキソプロフェン、イブプロフェンといった市販薬にも多く存在するものです。

ロキソニン®とか、イブ®ですね。

読み方が書いてあるサイトはあまりありませんが、通常、医療者はNSAIDsを“エヌセイズ”と読んでいます。

このNSAIDsは痛み止めとして有用である一方で、様々な問題を起こす可能性がある曲者なのです。

NSAIDsとは何か

非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs)が正式名称で、この英語の略語となります。

この薬の歴史はとても古いです。

紀元前500年頃、科学や研究も無い時代に、ヒポクラテスがヤナギの樹皮や葉に、鎮痛作用・解熱作用があることを発見しました。

この効能は長い期間にわたって、様々な文明で、科学者、錬金術師などに重宝されてきました。

1830年代には、このヤナギの樹皮からサリチル酸塩が抽出され、その後、現在も使われているアスピリンの開発に至っています。

痛みは、病気でなくても出現するありふれた兆候です。

腰痛、頭痛、肩の痛みなど感じたことがあって、痛み止めを使ったことがある人は多いと思います。

現在では、このNSAIDsは全処方薬の5%を占める売れ筋の薬なのです。

NSAIDsの作用について、詳細な機序は割愛しますが、

『シクロオキシゲナーゼを阻害して、痛みや炎症のもととなる成分の生成を抑える』

くらいを覚えておけば十分です。

シクロオキシゲナーゼ(COX)には、COX1とCOX2が代表的なもので、主な作用は以下の通りです。

COX1・・・胃の粘膜保護、血小板の凝集抑制など

COX2・・・炎症(痛みのもと)を引き起こす 

薬によって効き方に違いはありますが、このCOX1と2の両方を阻害するのがNSAIDsの代表的な作用です。

痛み止めでなぜか出てくる胃の話も、このCOXの作用で説明がつきますね。

NSAIDsと胃

NSAIDsと胃は密接な関係があります。

NSAIDsを服用していると、30%くらいの人は胃の不調が出てきて、10-15%で胃潰瘍が発生し、1%で胃潰瘍から出血すると言われています。

この胃潰瘍の厄介な点は、半分以上は自覚症状がないということです。

知らないうちに胃の粘膜がえぐれて、出血をしているのです。
ひどい場合には胃に穴が開きます。

また胃から出血をすると、一部の人は吐血をしますが、そのまま便として流れていくので気がつかないうちに沢山の血が出ていた、と言うこともあります。

病院の採血で貧血(ヘモグロビンの低下)があって、そこから調べていくうちに胃潰瘍が見つかることも少なくありません。

この胃潰瘍の予防のためには勿論不要なNSAIDsを飲まないことが大事ですが、どうしても必要な場合は胃薬の併用が良いです。

ただし、全ての胃薬が有効というわけではありません。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)もしくはボノプラザン(PCAB)が必要で、その他の胃薬だと胃潰瘍の予防効果がないだけでなく、中途半端に症状を和らげるために病気の発見が遅れる可能性も指摘されています。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、

・ランソプラゾール(タケプロン®)
・エソメプラゾール(ネキシウム®)
・オメプラゾール(オメプラール®)

などがあり、ボノプラザンとはタケキャブ®のことです。

胃潰瘍のリスクを下げるために、COX2選択的阻害薬を使うことも有効です。

その代表はセレコキシブ(セレコックス®)で、一般名が〇〇コキシブというもの達です。

炎症の経路として重要なCOX2だけを阻害して(そのため選択的と言います)、胃の粘膜の維持に大切なCOX1を阻害しないため、理論上は胃潰瘍とは関係がなさそうです。

実際に、COX2選択的阻害薬とプラセボ、すなわち薬物としての効果のない偽薬の胃潰瘍発生リスクは同等であると、いくつもの研究で報告されています。

つまり、胃潰瘍のリスクを下げるという点では、NSAIDsの中でも、COX2選択的阻害薬を使うのが良さそうです。

COX2選択的阻害薬は特別に胃潰瘍のリスクを上昇させるわけではありませんが、胃潰瘍の既往がある人ではPPIとの併用で胃潰瘍リスクが減ることもわかっています。
必要に応じて追加したいものです。

NSAIDsと心臓

循環器内科とNSAIDsは非常に縁が深いです。

主に2つの理由があって

①心筋梗塞や狭心症の治療で使うアスピリンはNSAIDsであり、先述の胃潰瘍の予防が大事

②COX2選択的阻害薬は心不全や心筋梗塞などの発症リスクが、飲んでない人と比べて2倍程度に上昇する

①はとても有名な話です。

抗血栓薬の話でも述べたとおり、抗血栓薬の内服中に出血が起きると死亡率が上がってしまうため、予防がとても大事です。

胃潰瘍の予防にはPPIもしくはボノプラザンが良いですが、低用量アスピリンによる胃潰瘍予防に限ればヒスタミンH2受容体拮抗薬も選択肢になります。

そのため、私たち循環器内科は、ランソプラゾールなどの胃薬を頻繁に処方しています。

さらに、アスピリンとタケプロン®の合剤のタケルダ®や、アスピリンとタケキャブ®の合剤のキャブピリン®という便利なものまであります。

②の心不全が増えることについては、認識している人も少ないと思います。

Na貯留作用、血圧上昇だけでなく、心筋細胞のミトコンドリア機能異常やアポトーシスを誘導する点も機序として考えられています。

胃潰瘍のリスクが低いからCOX2選択的阻害薬を使おう!というのは大事な考えですが、心筋梗塞や心不全が増える点は注意が必要です。

ところで、心筋梗塞のリスクには疑問に思われるかもしれません。

同じNSAIDsなのに、アスピリンは心筋梗塞を減らし、その他NSAIDsはなぜ増えるのか…?

NSAIDsには血小板の凝集抑制作用があり心筋梗塞に対して有利に働くように思えますが、一方で血管内皮細胞の障害を起こし血栓を引き起こしやすいというリスクもあります。

アスピリンは血小板の抑制>血管内皮の障害のため、結果的に血管の閉塞リスクを軽減してくれますが、その他の多くのNSAIDsは血小板に対して不完全な作用だったり、血管内皮細胞への障害の程度が強すぎるために、結果的に心筋梗塞を増やしてしまうようです。

一括りでNSAIDsと言っても薬剤ごとに特性が異なりますし、COX2選択的阻害薬と”伝統的な”非選択的なNSAIDsという2つに分けるだけで語れる問題ではないので、ザックリとした言い方になりますが、

  • NSAIDsの長期内服は心血管リスクが上昇する
  • COX2選択的阻害薬は、非選択的NSAIDsと比較して、胃潰瘍リスク↓、心血管リスク↑

このように考えると分かりやすいと思います。

NSAIDsと肺、腎臓、脳

・アレルギーとは異なる機序で喘息
・腎臓の細胞が死ぬ
・微少な脳出血を繰り返す

など他の臓器への影響もあります。

NSAIDsに限らず多くの薬に言えることですが、肝臓が薬の代謝や排泄に関わることが多いので、肝障害が出ることもあります。

これら副作用の出方は薬の種類によって異なりますが、胃、心臓、肺、腎臓、肝臓、脳と様々な部位に副作用が出る可能性があるのです。

よく言われることでもありますが、腎臓が悪い人達は、その程度によってはNSAIDsを避けた方が良いです。

腎臓の細胞が死んでいくため、腎機能がさらに悪化してしまいます。

湿布は大丈夫?

湿布は貼ったところのみ効果がありそうなので、胃や心臓の副作用は気にしなくても良さそうに思えます。

しかし実際には、湿布は全身に影響を与える可能性があります。

モーラス®テープのインタビューフォームを見ると、湿布を貼るだけでも血清中から薬物が検出されています。

貼り薬と飲み薬の単純な比較はできませんが、8枚貼付したときには、100mgのケトプロフェンの内服薬と同じくらいのAUC(※薬物血中濃度の指標)となります。

確かに全身への影響がありそうです。

例えば、湿布による胃潰瘍の出血については、報告自体は存在しています。

しかし一例報告を散見する程度であり、消化管性潰瘍のガイドラインにも貼付剤がリスクであるという項目はありません。

報告数の少なさからは適度に使う分にはあまり気にならず、使いすぎた一部の人だけ副作用が出ていると推測できそうです。

局所投与(つまり貼り薬)のNSAIDsについてまとめた論文を見ると、胃潰瘍の副作用については湿布で特別増えるわけではなく、プラセボと同等です。

さらに、湿布で消化器系以外の副作用は稀であり、腎臓が悪くなって透析や心筋梗塞などの重篤な副作用は存在はするものの、気にするほどではないと考えられています。

ただし、貼り薬の副作用についてはデータ不足なので、安全と断定は難しいです。

少なくとも内服薬よりも湿布の方が安全そうですが、皮膚トラブルが起きやすいことと、多少は全身へ影響するので貼りすぎには気をつけましょう。

まとめ

NSAIDsについてまとめました。

痛み止めとして有効ですが、副作用も多い薬です。

胃潰瘍だけでなく、心血管リスクについても留意したいものです。

漫然と使い続けないようにする、飲み薬ではなく貼り薬を使うなど、気をつけたいものです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



◆参考文献

Samik Bindu et al. Non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) and organ damage: A current perspective. Biochem Pharmacol. 2020 Oct.

日本消化器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン 2020(改訂第 3 版)

Yuta Oda et al. Refractory gastric ulcer due to undisclosed use of topical diclofenac epolamine patches. Acute Med Surg. 2021.

Sheena Derry et al. Topical NSAIDs for chronic musculoskeletal pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2016.

Gwen M C Masclee et al. Risk of acute myocardial infarction during use of individual NSAIDs: A nested case-control study from the SOS project. PLoS One 2018; 13: e0204746

Antman EM et al. Use of nonsteroidal antiinflammatory drugs: an update for clinicians: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2007 Mar 27;115(12):1634-42.

モーラス®テープ インタビューフォームhttps://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/650034_2649729S2169_1_001_1F.pdf

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